うたたねゲーミング

ゲームのことを不定期に書く。たぶん。

The friends of RINGO ISHIKAWA 感想

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The friends of RINGO ISHIKAWA」クリアしたよ。

おいおいおいリンゴは石川じゃなくて青森だろ」というのが、本作のタイトルを見た大半の日本人の第一印象だろう。
残念ながら(?)本作は石川県のリンゴ農家と農協が抗争を繰り広げるクライムアクションではない。
熱血硬派な不良「石河倫吾」とその友人が"ワル"の青春を謳歌し、葛藤するオープンワールドアクションアドベンチャーだ。
 
本作は「熱血硬派くにおくん」に強く影響を受けたロシア人によって制作された。制作秘話がGame*Sparkに掲載されているのでそれも是非読んでほしい。【https://www.gamespark.jp/article/2018/05/19/80905.html
 

物語

本作のタイトルにもあるように、このゲームの物語は倫吾が主人公でありつつも、彼の視点から描かれる友人たちが中心だ。
 
ボクサーを志すも喧嘩で骨折をしてしまい、目標を失った健。
「将来はヤクザになる」と息巻いて賭場に通う将。
自分を楽しませる「何か」を探し、演劇に出会う吾郎。
甘酸っぱくほろ苦い恋愛に振り回される四郎。
 
この四人のマブダチがそれぞれの将来へと一歩ずつ進むなか、プレイヤーは進路が曖昧な倫吾として日々を送ることになる。
 

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ゲーム性

不良の代名詞である喧嘩から始まる物語は、決してスーパーヒーローではない、等身大の高校三年生を主人公を中心に展開される。

学校の授業をサボればテストでF評価を食らうし、三人組の不良グループに喧嘩を売ればたちまちボコられて自宅までデルスーラする羽目になる。
それでも勉学に励めば担任から奨学金を貰えるし、毎日公園で筋トレをすれば数人相手には負けない身体を手に入れられる。
 

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五教科満点でオールA

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クリア直後の鍛え抜かれたステータス
今作は高い自由度を誇るオープンワールドゲームであると同時に、何かを達成するためには不良とは程遠い地道な努力が求められるハードな作品でもある。
カツアゲしても野良ヤンキーは多くて300円ほどしか持っていないため、主な収入源は先述の奨学金となる。いつの世も「ペンは剣よりも強し」である。
 
喧嘩はパンチ&キックが中心。往年のベルトスクロールのような無敵必殺技は存在せず、また俗に言う「食らい無敵」がプレイヤーには存在しないため、シビアなコントロールと立ち回りが求められる。
一部イベントによりテイクダウンなどの技も習得できるため、武闘派プレイヤーはテクニカルヤンキーを目指すこともできる。
その他に日常生活ではタバコを吸ったりヤンキー座りでしゃがむなど、随所にボタン操作でフフッとさせる仕掛けがあった。

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サウンド&グラフィック

グラフィック…というか風景は非常に自然で、住宅地のマップは懐かしさすら覚える日本らしい背景だった。
その他のデザインも不良ライフを一切邪魔しない落ち着いたもので、派手で目を引くものはないものの「それがいい」と言えるような映像にまとまっていた。
 
サウンドについては冒頭にURLを貼ったインタビュー内で「音楽の90%はフリー素材を使っています。」と述べられているため、ほとんどがオリジナルではないようだ。
BGMは「可もなく不可もなく」と言ったところ。印象に残るものは少なかった。
個人的にはメイプルストーリーのショーワ町のようなノスタルジーを誘うようなオリジナルのBGMが欲しかったところではある。
SEについてもこの作品では影が薄い部分だろう。
野良不良同士が喧嘩をしているとパンチの「バ゜」のようなSEがマップの端まで聴こえて、「あ、向こうで乱闘してんだな」というのが分かりやすい点は野次馬気分が味わえて面白かった。

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自由度とは裏腹に限定された結末

ゲームプレイについてだが、過程が極めて自由であるのに対して、エンディングが一つしかない点は非常に残念である。
高校三年生という人生の岐路に立った「石河倫吾」という不良青年を育てるのは面白く、プレイヤー次第でガリ勉優等生な生活を送れる自由度は期待をポジティブに裏切る意外なものであった。(先述インタビュー内で開発者が「ペルソナ3」のファンであると述べており、なるほど若干通じる部分があるなと感じた。)
日常生活がこれだけ自由なのに、友人とのイベントに一切の選択肢がないのも残念だ。
せめてイベントでの選択やステータスによって「不良制覇エンド」「大学進学エンド」「格闘家エンド」「フリーターエンド」くらいのバリエーションがあれば、プレイ過程に目標が持ちやすく、繰り返しプレイも楽しいものになったかもしれない。
 
また因縁の高校との乱闘の最中にこのゲームは突然エンディングを迎えるが、このイベント中の倫吾は体力がゼロになっても復活する仕様のため、リベンジに燃えて臥薪嘗胆のトレーニングをする楽しみもない。(そもそも敵はイベント仕様で体力が低いように感じた。)
クリア後要素や「強くてニューゲーム」のようなものも無く、エンディングを迎えたら「おわり」であるため、やや物足りなさを感じてしまう。
 

意図した「不親切」?

空腹状態が続くとステータスが下がるシステムがあるが、倫吾は高校三年男子らしく恐ろしい勢いで腹が減るため、高いステータスを保つためには先述の奨学金をガッツリ稼いでインベントリいっぱいに「チーズバーガー」を買い込む必要がある。
ステータス減少についてはノーヒント、奨学金についてもテストの翌週に職員室に出向くという初見ではほぼ気づけない要素であり、全般的にもう少しユーザーフレンドリーな誘導やチュートリアルがあっても良いのでは?と感じた。
説明不足はスーファミ時代リスペクトなのかもしれないが、知名度ゼロからスタートするインディーズゲームが、コミュニティによる攻略情報共有を前提としたようなシステムにするのはいかがなものか。
 
また体力についても、「公園の遊具でジャンプすることで始められる懸垂を、Aボタン長押し操作を繰り返して限界まで行うことで増加」という育成方法がある(というか序盤はこれしかない)のだが、これはインターネット検索以外でどうやって発見すれば良いのだろうか…
 
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一見すると「熱血硬派くにおくん」。
しかし中身は「牧場物語」のようで、与えられた時間を自由に、しかし堅実に過ごして理想の自分に一歩ずつ近づく、ライフシミュレーションのような作品だった。
 

物語やゲーム性の土台はプレイヤーを満足させるものである一方で、オープンワールドを彩るボリュームが圧倒的に不足しているように感じた。木に例えるならば、頑丈な幹に枝葉が一つもついていないような状態である。

 

本作のセピア色で感傷的な雰囲気は守るべきものだ。ドラマティックな展開は期待しない。

しかし、これがゲームであり、オープンワールドのシステムを採用している以上、全ての面においてボリュームはもう少し必要ではないかと感じた。

思いつくものを挙げると

-システム説明(空腹, 睡眠など)
-バックグラウンド説明(勢力図など)
-金策のバリエーション
-イベント&エンディング分岐
-サブイベント
あたりが足りていない。無いと言っても過言ではない。
 
製作者がファンだと言っていた「ペルソナ3」や、同じく高校生を育てるゲームの「パワプロ」と比較すれば、名作になるためには何が必要で何が足りていないのかが分かりやすい。
せっかくの高校生設定なんだから、四郎の恋の行方を見守るだけじゃなくて主人公も恋愛をすればいいじゃないかと思うのは浅はかな発想だろうか。
 
 
 
ここまで気になった点を並べてきたが、今作の文学的とも言えるストーリーや、ロシア人が作り上げたどこか懐かしい日本の雰囲気、そして横スクロール不良オープンワールドという優れた設定はプレイして損はない。
安価でもあることから、ライトなボリュームを逆手に取り、 「なんとなく」や期待の新作までの繋ぎで買ってみると、楽しい時間が過ごせるだろう。

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